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全部取得条項付き株式

全部取得条項付き株式の利用

完全なる事業承継をするために

完全なる事業承継をするためには、上場会社がM&Aで他社を買収したときに何をしているか、注意深く見ていると参考になります。

一つは買収される会社の経営者が、他の株主から株式を買って買収先に譲渡する方法です。事業承継の場合は後継者が一人一人の株主と個別に折衝して株式を買い取る方法になります。この方法のメリットは、個々の株主の合意の上で株式を買い集めるので買収後に禍根を残さない点にあります。ただし、買収期間が長くなり、買収金額がさまざまになる可能性があり、後継者の資金力の問題があります。さらに、先代が個々の株主に事業承継の必要性を説明をする必要性があり、後継者が説明しようとすると、財産の総取りの疑いをもたれやすくなります。支配権を獲得するように50%を超えようとした時の買取金額はかなり高くなることが予想されます。

もう一つの方法は、会社法にしたがって、発行済み株式の全部を発行会社が買い取って自己株式にする方法です。「全部取得条項付き株式」と呼ばれます。具体的には、次のような手続きを使います。

① 株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)で、定款を変更して、何らかの種類株式を発行できるようにします。よく使われる種類株式は、残余財産分配権に優先権を与える株式です。普通株主に残余財産を支払うときにその種類株式を持つ株主には1円余分に払う旨の種類株式です。以下分かりやすいようにA種種類株式と言います。

② 種類株式を発行可能とする株主総会で、既に発行している普通株式(種類株式からみると、普通株式は別の種類の種類株式と言えます。)のすべてに取得条項を付ける特別決議をします。

取得条項を付けるということは、対価を払って発行済み株式を買い取って自己株式にすることですから対価の種類と額を決議しておきます。

③ 次に、株主総会の特別決議で、全部取得条項を実行し、株主には対価が支払われます。対価が現金なら株式は会社が買い取って自己株式となり、既存の株主には現金が支払われます。支払われる対価が種類株式なら株主割当てで新株を発行することと同じになります。これなら1円もキャッシュ・アウトしません。

④ 株主割当ての割当て率は、筆頭株主の株式数に対してA種種類株式を1株とします。すると、筆頭株主は1株、筆頭株主以外の株主は端株が割り当てられます。

端株には議決権がないので、結局、筆頭株主のA種種類株式1株だけが唯一の議決権のある株式になります。

⑤ ここで、A種種類株式の端株(つまり以前のほとんどの株主の持っている普通株式に対して割り当てられた株式)は時価で買い取り自己株式にするか、端株を裁判所の許可を得て筆頭株主に売却して、端株主に譲渡対価が支払われます。

全部取得条項付き株式を利用するメリットは、個々の株主の意見を聴くことなしに一斉に株式を会社が買い上げられるので、決定までの期間が圧倒的に速くなります。

株主は株式の買収金額に不満があれば裁判所に買収金額の見直しを訴え、裁判で対応します。しかし、全部取得そのものに対して反対の決議は、多数決の原理に従って、できません。決議そのものに反対するためには、株主総会の招集手続きなどに瑕疵があった場合しか認められませんので、会社側は弁護士に相談するなど、相当の注意をする必要があります。

また、株主総会の特別決議が必要なので、先代と後継者の所有している株式数が3分の2に満たない場合は他の株主の賛成が必要になりますので、それについても、他の株主を説得する必要があります。これも、先代が説得する方がスムースにいくと思われます。つまり、事業承継は事業を手放す先代の側の決断と説得力が重要です。

また事前の準備として④の筆頭株主の地位を得るために、先代または大株主からある程度以上の株式を、譲り受けるか、贈与を受ける必要があります。この場合の譲受や贈与時の株価を出来るだけ下げておく必要があります。この場合、何株手に入れれば筆頭株主になれるか検討する必要があり、後継者が筆頭株主になることで筆頭株主になりそこなった株主について一定の配慮が必要でしょう。

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第一コンサルティング株式会社は、中小企業の事業承継を応援します。私たちは、現経営者と事業承継の話をしてみます。私たちは、息子さんの考えを聞いてみます。

完全なる事業承継は、税法の知識だけで実現できません。会社法や信託法の知識だけでも実現できません。今は、総合的な知識が必要な相続コンサルティングが求められています。

※平成24年12月当時の法律により記載している記事です。その後の改正には対応しておりませんのでご留意ください