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株式移動時の株価

株式移動時の株価について

事業承継のコストを下げるために

完全支配をするためには、全部取得条項付き株式を実行し、筆頭株主にのみ種類株式を割当て発行する方法があることは既に説明したとおりです。

後継者が筆頭株主になるためには、ある程度の株数の株式を買い集めるか、贈与を受けることになります。

ここで、事業承継のコスト(譲渡の必要資金と税金の合計)を下げることは、後継者にとってキャッシュ・アウトが少なくなり、先代にとっては譲渡所得税の税負担が少なくなるので、出来るだけ株式評価額を安くしたいと考えます。

株式の贈与、譲渡時の株価です。以下のように、誰から株式を取得するかにより株価が変わります。(株主が個人の場合)

 株式の価額は、決して一物一価ではありません。

贈与を受ける時(相続と同じ) 純資産価額と類似業種比準価額の重み付け平均価額 通常、一番低い価額
親族以外からの買取の時 贈与の時と同じ価額(純資産価額と類似業種比準価額の重み付け平均価額)  
親族(中心的同族株主)からの買取の時 含み益の法人税等を控除しない純資産価額と類似業種比準価額の単純平均価額  
法人からの買取の時 時価(第三者鑑定評価額又は含み益に対する法人税等を控除しない純資産価額) 通常、一番高い価額

贈与税はかなり急峻な累進課税であり、譲渡所得税は20%の固定税率ですから、贈与税が20%の実効税率の間は贈与が有利、それを超えると譲渡所得の方が有利といえます。

贈与税の税負担が20%となるのは、贈与金額が8,450,000円((8,450,000円-基礎控除1,100,000)×40%-1,250,000円=1,690,000:1,690,000÷8,450,000=0.2)のときです。

特に、贈与で、相続時精算課税が使えば、基礎控除が2500万円、税率が20%になりますので、譲渡より贈与が有利になります。(税率が同じ20%なのに贈与でなく譲渡を使うかというと遺留分訴訟を避けるためです。つまり、譲渡と贈与を組み合わせて株式を移動します。)

何より、相続は時期を選べませんが、贈与や譲渡は株価を安くするための作戦を実行でき、最も有利なタイミングで株式を異動できます。

贈与後に株価が下がってしまったときは、贈与のタイミングを誤ったとして悔いは残りますが、株価が上がった時は良かったと言えます。

現経営者以外の株主から株式を移動するときは、上記の8,450,000円以上なら、税率20%の譲渡が有利になります。(もっとも、現経営者以外の株主が贈与してくれることは期待できないとして。)

全部取得条項を実行したときに会社が負担する株価は、次のように第3者の鑑定を受けた時価となります。第3者の鑑定を受けないときは含み益に対する税効果を考慮しない時価純資産評価となります。

会社が自己株式を取得する時 時価(第三者鑑定評価額又は含み益に対する法人税等を控除しない純資産価額) 通常、一番高い価額

全部取得条項付き株式は株主総会の特別決議で決定しますから、一旦決定した事項に対して、一部の株主が決議自体を否定することはできません。ただし、株価が低すぎると思われるときは、株主総会に出席して反対決議をしておけば、総会後20日以内に、裁判所に価格決定の申し立てをすることができます。

 第一コンサルティング株式会社は、中小企業の事業承継を応援します。私たちは、現経営者と事業承継の話をしてみます。私たちは、息子さんの考えを聞いてみます。

完全なる事業承継は、税法の知識だけで実現できません。会社法や信託法の知識だけでも実現できません。今は、総合的な知識が必要な相続コンサルティングが求められています。

※平成24年12月当時の法律により記載している記事です。その後の改正には対応しておりませんのでご留意ください