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分散した株式を集めよ

分散した株式を集めよ

事業承継は現経営者がいるのといないのでは、難しさが違います

 日本で、旧商法時代には株主が7人以上いないと株式会社を作れませんでした。厳密に言うと株主が7人未満で会社を創る「発起設立」と株主が7人で会社を創る「募集設立」とがありました。会社の設立がより簡単だったのは「募集設立」でした。そのため、親戚や友人知人に声をかけて、7人以上の名前で会社を作りました。

 もちろん会社設立後に名義株を買い取ったり、名義株であると念書にサインをもらったりしましたが、名義株の株主は名前だけなので特にクレームを言うわけではないのでそのままになっている会社がたくさんあります。中には、自分が株主であったかどうかも忘れてしまっています。

 また、平成10年会社法が改正され、法人とは名ばかりで実態は個人事業主と同じだから、経営者だけの会社(経営者以外の株主が10%未満の会社)の役員報酬の損金算入を制限したことがありました。

 各社は、従業員や親戚に株を持ってもらい、株式を分散させ、役員報酬の損金算入ができるようにしました。

 また、同続会社の留保金課税という配当しないで内部留保を厚くすると、法人税を課税する規定があったため、親戚や子供たちに株を贈与したり買い取ってもらったりしました。

 この結果、株式は分散しました。株主になった人たちの、相続が発生すると、顔も知らない、性格も分からない株主が増えてきました。

 これら新しい株主は、最初に親たちが株式を持った理由もわからなくなっています。

 中には「株式」の本来の意義と異なり、会社に一言文句を言える権利だという認識が増えています。株主はズカズカと経理や総務にやってきて、自分はこの会社のオーナーだと威張ったり、書類の閲覧をして、欠点を探してはクレームを言うモンスター株主になりました。

 会社の経営者の皆さん、特に同族会社の経営者の皆さん、大至急で、株式を集めてください。モンスター株主が目を覚まさないうちに!

 今はモンスターはいないと思っている会社も、明日にはモンスターが跋扈するかもしれません。彼らには「帳簿閲覧権」という会社法でに認められた兵器があり、株主代表訴訟という武器があります。

 株式の集め方の基本は株主と個別に折衝して株式を譲ってもらうことになります。

 この時、「あなたが、そろそろ、モンスター株主になるかもしれないから株式を取り上げてしまうためです。」というわけにいきません。もし年頃のご子息がいるなら、事業承継のためと言ってください。

 しかし、過激になりそうな株主がいるなら「全部取得条項付き株式」を用意してください。全部取得条項付き株式という株式は、2種類以上の種類の株式を発行している会社が、そのうちの一つの種類の株式を自己株式として買い上げるものです。現在1種類の株式しか発行していない会社(ほとんどの会社はこの会社です。)は、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)で、2種類目の種類株式を発行する決議をします。

 株式は平等の原則がありますから、同じ種類の株式は持っている場合、人によって受けられる権利義務を変えることができません。(もっとも、定款を変更して、初めから、受けられる権利義務の内容の異なる株式を発行したら、その種類株式については、他の種類株式と異なる扱いをすることができます。)ですから、自己株式にするときは、全部買い取らなければなりません。

 買い取る対価は現金である必要はなく、社債や他の種類株式でもかまいません。

 この時、筆頭株主の持っている株式数に対して「1株」種類株式を割当てします。筆頭株主以外は、筆頭株主の持っている株式数ほどの株式数を持っていないので、同じ種類の株を割り当てると、端株が割り当てられることになります。端株は1株未満なので、株主総会で議決権を持っていません。つまり、スクイーズ・アウトしたことになります。

 全部取得条項付き株式を成功させるポイントは、①大義名分があること、②2番目以下の株主の少なくても一人がその大義名分に賛成してくれることです。

 たとえば、現在の経営者が「長男の太郎が30歳になったから、後を継がせたい。」と大義名分を言うと、2番目の大株主が「そうだな、太郎は元気だから後継ぎとして適任だ。太郎のために私が持っている株式は会社に買い取ってもらって、太郎の経営の邪魔にならないようにしてやろう。」と言ってくれることです。

 現在の経営者が、太郎の後継ぎを応援して、2番目の株主に「追うしているよ」と言ってもらうように手配しておかなければなりません。

 現在の経営者がお元気のうちに、応援してくれなければ、なかなかうまくいきません。

 現在の経営者が死亡や引退した後では、後継者が自ら「俺が経営者になりたいから、2番目の株主のオジサン協力してくれよ。」というのは、できないことではないけれど、相当勇気が必要というか、言いきる自信がないと言えません。

 また、言われた2番目の株主のオジについても、いつでも賛成してくれるかどうかわかりません。後継者の太郎は財産を一人で取ろうとしているのではないかと邪推するかもしれません。

 事業承継は現経営者がいるのといないのでは、難しさがかなり違います。

 第一コンサルティング株式会社は、中小企業の事業承継を応援します。私たちは、お父さんと事業承継の話をしてみます。私たちは、息子さんの考えを聞いてみます。

完全なる事業承継は、税法の知識だけで実現できません。会社法や信託法の知識だけでも実現できません。

 総合的な知識が必要な税務コンサルティングが求められています。

※平成24年12月当時の法律により記載している記事です。その後の改正には対応しておりませんのでご留意ください